労務

香港の雇用条例は人事管理の基準となるもので、日本の労働基準法に相当する規定である。雇用条例は一部の者を除きすべての労働者に適用される。(雇用条例 第1章)

1. 雇用条例

香港で従業員を雇用する際、以下の雇用条例のポイントについて留意する必要がある。

1) 雇用契約

契約には明示的条件と暗示的条件があり、契約の形態は口頭でも書面でも良いとされている。①賃金、②賃金の計算期間、③契約の解除に必要な予告期間、④年末手当の金額と支払時期などを雇用主は労働者に対して明確に説明する必要がある。

2) 賃金

賃金は報酬、所得、手当だけでなく、コミッションやチップ及びサービス料金など労働に関連して労働者に支払われる全ての対価を含む。賃金は賃金計算期間の最終日あるいは最終日より7日以内に支払わなければならない。

3) 休息日・法定休日、年次有給休暇

(1) 休息日

雇用主は労働者に7日毎に尐なくとも1日の休息日を与えられなければならない。雇用年数にかかわらず、労働者は以下の法定休日を与えられる。

(2) 法定休日

①1月1日
②旧暦正月の元旦
③旧暦正月の2日目
④旧暦正月の3日目
⑤清明節
⑥5月1日(労働節)
⑦端午節(ドラゴンボート節)
⑧7月1日(香港特別行政区設立記念日)
⑨中秋節の翌日
⑩重陽節
⑪10月1日(国慶節)
⑫冬至またはクリスマス(雇用主の選択による)

(3) 年次有給休暇

雇用主との継続的契約(同一の雇用主の下、4週間以上、18時間/週以上の就労を伴う雇用契約)に基づき12ヶ月以上の間雇用された労働者は、勤続年数に応じて7日~14日の年次有給休暇を獲得できる。

4) 傷病休暇

以下の条件を満たす場合、傷病休暇と見なされ傷病休暇の受給が可能となる。
(1) 取得した傷病休暇が連続して4日以上であること(産前産後検査や関連する治療に関しては、4日未満でも受給可能)
(2) 医師による診断書があること
(3) 労働者が取得可能な累積有給傷病日を獲得していること

5) 出産育児保障

産前産後休暇の開始日以前より継続的契約に基づき40週間以上雇用されている女子労働者は、雇用主に対して産前産後休暇取得の通知と出産日予定日を明記した診断書の提出をすることにより、連続10週間の産前産後休暇手当を受領することができる。

6) 年末手当

年末手当とは、契約で定められた年次手当(ダブルペイ、13ヶ月目の手当、年末賞与など)をいう。算定期間(雇用契約で規定された期間、または規定がない場合は旧暦の1年間)において、継続的契約に基づき雇用されていた労働者は、年末手当の受給資格を持つ。

7) 雇用契約の解除

雇用主或いは労働者が雇用契約を解除する場合、相手方にしかるべき予告、または予告手当の支払いをすることにより雇用契約を解除する事ができる。

(1) 試用期間中

試用期間1ヶ月以内は、予告期間及び予告手当は不要である。試用期間1ヶ月後は、少なくとも7日以上の予告期間と予告手当(雇用期間中の給与に基づく計算が行われる)が必要となる。

(2) 試用期間後(または試用期間のない場合)

予告期間の合意がある場合、少なくとも7日以上の予告期間と予告手当が必要となる。予告期間の合意がない場合、少なくとも1ヶ月以上の予告期間と予告手当が必要となる。

8) 雇用の保護

雇用の保護に関する規定は、雇用主が労働者を解雇することを思い止まらせることを目的としている。労働者は、①不当解雇、②雇用契約の条件の不当な変更、③不当かつ非合法的な解雇の状況に対して救済の請求ができる。雇用の保護に関連し、復職や再雇用命令が実施されない場合、雇用者は雇用終止金を労働者に支払う義務がある。

9) 解雇補償金・長期服務金

解雇保証金及び長期服務金とは、労働者が一定の条件(余剰人員整理や一時解雇など)の下、解雇または退職した場合、雇用者から受給できる手当である。これらを両方受給することはない。月払い労働者の場合、次のいずれか少ない金額(①(最終月給給与額 × 2/3)× 就業年数>、又は ②(22,500香港ドル × 2/3)× 就業年数)が適用される。

10) 労働組合活動への差別待遇からの保護

全ての労働者は、3つの権利(①労働組合に参加する権利、②労働組合を結成する権利、③労働組合登録申請のために第三者と提携する権利)を有する。

11) 労使裁判所または少額賃金請求仲裁所の判決命令により裁定された金額の支払わなかった場合の雇用主の刑事責任(第12章)

裁定金額の決定後14日以内に支払いを行わなかった場合、その雇用主は起訴された場合、最高35万香港ドル及び3年の禁固刑に処される可能性がある。

2. 強制積立退職金制度(MPF)

2000年12月より法定社会保険である強制積立退職金制度(MPF)が導入された。

1) 対象者

香港企業の、18歳から65歳までの被雇用者で、60日以上雇用される者が対象となる。香港外で年金制度に加入している者は、適用範囲外とすることができる。

2) 積立額

月額給与の10%(企業5% 及び 個人負担5%)を保険会社や銀行の信託子会社を通して毎月積み立てる。月給30,000香港ドル以上の場合、被雇用者の強制拠出金は上限の1,500香港ドルとなる。

3) 受給

65歳で初めて受給が可能となる。次の者(①60歳以上で早期退職制度を適用する者、②永久に香港から離れる者、③死亡時、重度の障害発生時)は、例外として受給できる。

3. 労働者災害補償保険

香港の会社は、労働災害に対する保険への加入義務がある。従業員を雇用するにあたり、加入している保険会社へ通知し、登録手続きを行わなければならない。なお、保険料は全額会社負担となる。また、任意で医療保険に加入する会社が多い。

4. 法定最低賃金制度

2011年5月1日から、法定最低賃金制度(施行時の時給は28香港ドル)が施行されている。2017年5月1日より、時給は34.5香港ドルに改定されている。尚、家政婦、インターン(勤務日数60日以下)などは、最低給与の適用対象外である。

5. ビザ

就業または投資の意図を持つ者は、ビザの申請が必要となる。

1) 就業ビザ

従業員として香港で働く者が取得するビザであり、ビザ申請者だけでなく、雇用主も審査基準を満たす必要がある。主に審査では、①申請者が香港経済の発展に有益な知識や技術等を有しているか、②申請者の職位が空席に伴う雇用かどうか、③申請者の職位の空席を現地香港の人員により補うことができるか等が考慮される。

2) 投資ビザ

香港法人の株主として香港に滞在し事業をおこなう者が取得するビザである。主に審査では、①申請者個人の資産状況、②香港での事業計画、③雇用計画などが考慮される。