【香港経済を追え vol. 43】
香港財政予算案2021/22(2021年4月から翌年2022年3月までの行政年度分)が2月24日に発表されました。週刊誌U Magazineに掲載された施策丸わかり早見表にてご紹介します。
同雑誌はFacebookページがありFB利用者がコメントを残しているので、市民の反応を織り交ぜながら、まとめの内容を見ていきます。
週刊誌U Magazineは、旅行や香港ローカルのインスタ映えする景観のよい場所や、新しいレストランなどのレジャー中心の週刊誌です。紙媒体の雑誌最新号は三分冊で「香港で花見~桜攻略」がカバーストーリー。海外旅行の情報としては、台湾・宜蘭、日本・金沢、イタリア・ポンペイ遺跡、ニューヨーク・草間彌生作品展、大阪・The New Otaniホテルのストロベリーステイを紹介。
ネット版では、Facebookにページがあり今回の丸わかり早見表はそこに掲載されたもの。
https://www.facebook.com/umagazinehk/
その他、YouTubeチャンネル、Telegramチャンネルも。
香港2021/22財政予算案の、英語版・中国語版の実物は、以下の政府の公式サイトアドレスから閲覧可能(ネット上の表示、あるいはPDFダウンロード)。
https://www.budget.gov.hk/2021/chi/estimates.html
中国語版
https://www.budget.gov.hk/2021/eng/estimates.html 英語版
市民生活の苦境を軽減
・香港18歳以上の市民すべてに$5000の電子消費券を支給。※電子デバイス経由となる見込み。スマホ・タブレットを使えないお年寄りには不公平との声も。
・給与所得税、個人所得課税の100%還元、ただし上限1万香港ドル。
・8万ドルを上限とした100%失業者ローンを設ける。申請期間6か月で年利1厘。※今現在、既に困窮している失業者を6か月待たせ、しかも給付金ではなくローンで利息と元本を返済しなければならないので、何の救済にもならないとの批判も。
・住宅物件に係る土地使用公課を、最初の2四半期分上限$1,500、後の2四半期分上限$1,000まで減免。
・生活保護、高齢者生活手当、身障者手当てを、半月分金額上乗せ。
・電気代補填として各世帯HK$1,000支給。
・2022年DSE学生の試験費用を免除。※DSE=Diploma of Secondary Educationは中等教育(六年間、日本の中学・高校に相当)終了学位証明書で、これを学校から受け取らないと大学へ進学できない。
・10億香港ドルを準備金として、3,000棟の老朽化したビルのオーナーが排水管の改善やビルの改善工事実行の援助に使う。※泥縄式だが、新型コロナが住宅ビルの排水溝から見つかったことへの対策。
批判の声:電子消費券$5,000は、五回に分けて発給されると言われており、そのための事務費用が8億ドルかかり、使用にも制限があるため、実用性が乏しいという声がある。一方で市民の声を封じ込める新法「国家安全維護法」の施行費用に80億ドルが割り振られ、何のために税金を払っているのか理解できないとの声がある。
企業・就業を支援
・上限1万香港ドルで所得税を減免。
・ 次年度の非住宅不動産物件の土地使用公課〔差餉rates ※通常物件所有者からテナントに転嫁されて、賃借料・管理費と一緒に請求される〕を減免、最初の2四半期は各戸四半期ごとに上限$5,000、その後2四半期からは上限$2,000に減額。
・非住宅不動産物件の請求水道費と汚水排出費の75%を減免、ただし毎月それぞれ減免上限を$20,000と$12,500とし、8か月実行。
・次年度商業登記証費用〔毎年更新の税務局法人登録費用〕を減免。
・CEF適用範囲を拡大し、オンライン授業も対象内に含める。※CEF=Continuing Education Fund, 持續進修基金は、18~65歳の在職成人を対象に職業上有益な技術科目あるいは外国語やコミュニケーション科目の受講費用を上限$10,000以内で補助する給付金制度。中等教育(六年間、日本の中学・高校に相当)終了学位証明書で、これがないと大学へ進学できない。
・公立私立の機関の両方で約3.1万の臨時就業のポジションを設ける。
土地および住宅の提供
・将来10年間に建設する31.6万戸の公営住宅設備用の土地を既に確保済み。
・五年内の予測として、公営住宅の建設量トータルが約10.1万戸、民間デベロッパー開発の住宅施設が毎年平均落成量で1.8万戸超と見込む。※九龍東の商業ビル地区5点を5,800戸の住宅に転用するという記述があり、既に交通渋滞のひどい九龍東の觀塘Kwun Tongの実情をわかっていないとの酷評が出ている。
・關愛基金[*]に支援を求め、NGOがホテルやゲストハウスを賃借して過渡的な住宅施設として提供できるようにする。
・東涌東[1]埋立工事初ロットの公営住宅約一万戸は2024年入居可能を目指す。
・古洞北[2]初ロットの公営住宅は前倒しで2026年入居可能を見込む。
・元朗南[3]初ロット公団住宅施設は2028年落成予定。
・小蠔灣車厰用地計画[4]で約2万戸の公営・民間開発の住宅用施設を提供、2030年入居可能を目標とする。
注記:[*]關愛基金Charity Care Fund。香港の社会的セーフティネットとして設立された慈善基金で、生活困窮者の救済を多方面から行っている。[1]現香港国際空港の東所在する人口島の東側を追加埋立で開発する計画。[2]新界北中央から南西へ伸ばして現在の西鉄路線に連結する予定の北環線の起点となる駅周辺の開発計画。駅の建設用地は確保されて基礎工事のみ終わっている。 [3]新界北東にある、既存の元朗Yuen Long ニュータウンを南に向けて拡大する計画。対象地区は現在廃タイヤ投棄やトラック修理工場など土地利用が進んでいない。また新界は植民地統治時代に英国女王の私物であった九龍・香港島と違い、土地の個人所有が許されており土地の収用が複雑となっており、元朗南も開発対象の85%個人所有。そのため再開発には既に30年をかけてフィージビリティスタディーが行われているが、開発は政府と民間のベンチャーとなる見込み。 [4]ランタオ島にある、地下鉄・エアポートエクスプレスの操車場の隣接する土地に住宅ビルを建設する計画。既に2020年財政予算案で発表がされていた。空港建設に伴い島の北側の多くがう埋立てられたが、海岸線がカーブするこの小蠔灣部分は中華白イルカの生息する深水部であるので埋立てが止められている。
テクノロジーイノベーションと金融
・10億ドルを投じてイノベーション産業の発展を推進する。
・毎年「イノベーションおよびテクノロジー基金」に47億5,000万ドルを投下し、基金の対象となる資金援助の計画や研究室の今後三年間の業務を支える。
・パイロット形式事業の恒常化を図り、ローカル大学の理工系学生が技術革新関連の業界で短期インターンに参加できるようにする。
・20億ドルあまりを「優秀なる技術革新計画」を推進のために投じて、大学が国際的に知名度の高い学者やチームを香港に誘致する動きを援助する。
・「大灣区Greater Bay Area青少年就業計画」で新たに700件の技術革新関連の就職先を設ける。
・150億ドルを超えるiBond[注△]を発行する。
・240億ドルを超えるシルバー債券[注▲]を発行する。購入可能な資格を60歳まで引き下げる。
注△ iBond通脹掛鈎債券は、香港政府は発行する債券でインフレ率と(直近六か月の消費者総合物価指数を元にして)同期した配当金を年二回出すもの。2011-2016年毎年、2020年11月に発行されており、最低購入額面は$10,000から。
注▲ シルバー債券(Silver Bond 銀色債券)は、香港政府が発行する債券で過去六か月間のインフレ率の平均値で計算した配当金を年二回だすもので、毎年保証最低利回りが発表される。購入資格は満65歳以上の香港IDカード保有者であり、購入者本人がブローカーを介さずに直接申し込むことになっていて、譲渡はできない。利回り実績は、2016-17年は2%,2018-19年は3%,2020年は3.5%で、債券期日は三年間。こちらも購入単位は$10,000の整数倍となっている。
批判の声:先端技術の企業への援助は手厚いのに、コロナ禍で疲弊している市民個人へ福利厚生があまりにも貧弱との批判が出ている。
観光資源のレベルアップ
・ローカル文化、史跡、イノーヴェーションあふれる観光プロジェクトを進めるために1.6億香港ドルをプール。
・観光発展局が推進する「旅遊・就在香港 Holiday at home」[1]や「360 Hong Kong Moments」などの香港内でのプロモーションプランに7.6億ドルをプール。
・ボーダーを越える観光が続々と復帰することに備えて、「Open House Hong Kong」のプラットフォーム[2]を推進する。
・ローカル観光ツアー団のグループ集合の制限を緩和回復を検討する。
・香港と経済貿易関係が密接であり新型コロナの状況が落ち着いている地区と「航空旅遊氣泡 Air Travel Bubble」[3]を協議し再開準備を整える。
[1] https://www.holidayhk.com/zh-hk/ 香港観光発展局公式サイト内の項目。
[2]https://www.discoverhongkong.com/content/dam/dhk/zh_tc/corporate/newsroom/press-release/hktb/2020/07-Global%20Online%20Forum-C-Final-R1.pdf 「ディスカバー香港」の一部としてのプロジェクト。(PDFが開きます)。
[3] 去年、2020年にキャセイパシフィックとシンガポールエアラインが共同で開催予定だった空の旅を盛り上げようとするキャンペーン。新型コロナで各国がロックダウンを始め、実施前日に急遽実行延期になった。このキャンペーンのことは当ブログでも11月24日付けの中でも扱っています。ブログアーカイブからご覧ください。
https://www.cathaypacific.com/cx/zh_HK/travel-bubble/hong-kong-singapore/how-the-hong-kong-singapore-travel-bubble-works.html
環境とエコ
・五億ドルを投じて郊外公園施設やレジャー施設の改善向上を行う。
・郊外の人気ハイキングコース十路線の改善に5500万ドルをプール。
・「サッカー場施設グレードアップ五年計画」を進めるために3億ドルをプール。
・ビーチの環境改善に65億ドルをプール。
・来月には香港で初の電気自動車普及化の路線図を発表。 ・71億ドルの優先的助成金につけた計画によって、2027年末まで段階的に4万台の欧州連合第四期の商用ディーゼル車を排除していく。
・電気自動車のミニバス(16席のバン、定期路線のものと流動的な路線のものがある。多くは24時間運行している)を試験運用するために8,000万ドルをプール。
・ビクトリアハーバーを定期運行する電動フェリーの試験に3.5億ドルをプール。・自家用車(自家用電気自動車を含む)の初回登録税の各課税段階の税率を15%引き上げ、ナンバープレート発行費用を30%増やす。
・「交通渋滞時課徴金」およびセントラル電子化走行費用徴収パイロット計画の研究を実施し、交通渋滞の緩和を図る。