【香港経済を追え vol. 37】

香港のキャッシュレス化傾向

ニュースソース: iMoney Magazine 智富雜誌 #690(2021年1月9日号) p. 36, 38, 88.

88ページ 「財務経済用語解説」

『キャッシュレス決済化』(香港での呼び方は“無現金化”)

香港の経済情報週刊誌であるiMoney Magazineが、日本政府は主なキャッシュレス決済または現金を使わない決済方法を、クレジットカード・デビットカード・電子マネー(プリペイドカード)・モバイルウォレット(QRコードなど)によるものだと、引用紹介した上で[注1]、次のようにキャッシュレス決済を用語解説している:

“キャッシュレス化について、日本政府は、現金を使わない決済手段を提供するとともに、具体的な重要業績評価指標(KPI=Key Performance Indicators、この場合は顧客満足度の定量化の手段)を定めることが必要であり、2025年に開催予定の大阪万博までに、一般消費者の消費行動の現金支払ゼロの比率を40%にまで高めて、国際水準に追い付こうとしている。銀行については、紙幣・硬貨に頼る消費者が少なくなれば、銀行の手数料収入が増える可能性が増すことになり、バーチャル銀行に対して実体のある窓口業務の銀行に行く人が少なくなる可能性を意味する。銀行は現金を取り扱うための人的コストを省くことが出来る。そのほかの金融機関については、こうした様々な決済手段のイノベーションを市場に送り込むことが新たな利潤を生む源泉になる。”

[注1] 『キャッシュレスの現状と推進』経済産業省2020年1月キャッシュレス推進室
https://www.soumu.go.jp/main_content/000506129.pdf

(上記のPDF資料では、日本でのキャッシュレス決済の普及が韓国や台湾よりも数年遅れを取っていることがチャートで示されている)

36, 38 ページ 「Market Focus 会社インタビュー」

雑誌は、巻末の用語解説で以上のような概要を述べる一方、雑誌本文では香港Visa社の「香港マカオ地区ビジネス部門」総支配人の何俊傑Gavin HO氏[注2]へのインタービュー記事の中で、次のように消費者動向を伝えている:

新型コロナでビジネスの手法が変化しつつある中で、決済方法の習慣にも変化が起きている。Visaのリサーチでは2019年に既に香港の消費者の電子的決済の使用量は現金を越えている。「実体のある店舗での購入からネットでの消費行動へのシフトとともに、支払形態も非接触型の形態が増えており、キャッシュレスは最終目的ではないとしても、選択の幅が広がることは好ましいと消費者が捉えていることが伺われる」と何氏は答えている。

[注2] 何俊傑Gavin HO氏は、香港Visa社のe-Commerceの構想を展開するPDF資料の中にも登場しており、香港・マカオ・台湾での消費動向や決済状況について語っている。次のサイトアドレスのPDF資料は、中国語・英語のバイリンガル。

https://www.visa.com.hk/dam/VCOM/regional/ap/hongkong/global-elements/documents/visa-whitepaper-hk-final-compressed.pdf

「2020年の新型コロナの感染拡大に伴い、加えて“Stay Home Stay Safe”の政府主導の呼びかけも加わり、リサーチ対象の消費者の約20%が初めてネットショッピングをするようになったと回答があり、全体的に購買支出の52%をオンライン購入が占め、新型コロナ禍以前の40%から伸びています。消費者の45%は、新型コロナ収束後も、オンライン購入を続けていくと答えています」と何氏は数字を挙げて答えている。

同社のリサーチでは、消費者から3つの年齢層を取り出し、18-24歳、25-34歳、35-44歳のグループで年齢層が若くなるほどオンライン購入の習慣が高い傾向にあることが見て取れるとしており、5割に達する。その内の75%以上は食品の宅配オーダーのアプリ経由。〔香港ではUber Eatsなどよりも、food panda、戶戶送Deliverooというモバイルアプリの利用が一般的。レストランレビューのサイトでFacebookとも連動してメニューと価格が閲覧できる、OpenRice.comというサイト経由のオーダーも多い。下の画像のように、香港生まれ香港育ちのインド系住民がバイクで宅配する姿は、香港島のほうでは良くみかけられる〕。

「こうした支出は着実に伸びています」。一方で、これ以外にもオンラインショッピングは、フィットネス、スポーツやレジャー、アートや工芸品、教育関連の商品と、網羅する範囲の伸びも大きい。

25-34歳の層でネットショッピングが定番化

この年齢層はコロナ禍が始まってから最も堅実なネットショッピングの習慣の伸びを見せており、毎月延べ4.2件から延べ5件に増えている。「ここで面白いのは、香港ローカルのサイトを好む傾向が顕著だという点です。これは小売業者の多くがコロナの影響でついにネット上での売上拡大の活路開拓に目覚めたことを意味していて、特に零細の小売業もネット販売を通じて新たな消費者行動を刺激した結果だと言えます」。

Visa香港では、電子決済を推進する基盤として、従来通りのクレジットカードやデビットカードでの支払ではデバイス設置や利用手数料の敷居が高かった小売業を取り込む策を推進している。
Visa香港はこれから起業しようとしているビジネスを取り込むプロモーションも行っている。

同社の2019年以降のリサーチでは、クレジットカード・デビットカードが主な決済手段となっており、決済件数では、2019年の80%から2020年の84%への増加を見せ、その他各種電子デバイスでの決済件数は31%から41%へと増え幅を示している。

一方で、現金決済減少は顕著で、リサーチ対象の回答者の内、2020年に現金支払をしている人は78%で、2019年の91%から大幅に減った。2020年の最初の8ヶ月間では、現金支払を減らした回答者と現金支払を増やした回答者とでは、数の上で37%の差が出ている。

セキュリティーの面でも、Visaはモニタリングを行うシステムを稼動しているほか、消費者がクレジットカードをネットショッピングで使う度に銀行側からの一回限り有効な認証コードの入力を求めるようにするなど、消費者へより多くの保障を提供している。「今では過半数の消費がオンラインからのもので、ネットでの購入が既に新しいものでないばかりか、信用できるものだと消費者が認識していることがわかります」。

ネットでの購入は衛生面でのメリットも

何氏が指摘するように、ネットでの購入は、利便性だけでなく、コロナの影響で紙幣・硬貨が細菌やウイルスで汚染されているというイメージが消費者に広まったためか、キャッシュレスにはコンタクトレス(非接触)というメリットも期待されている。「社会全体が、電子ツールでの消費を押し上げる傾向を醸成していると言うことも出来るでしょう」。

同時に、新たな電子決済のツールが次々と登場していることも流れを作る大きな要因。何氏は、競争力を高めることよりも、現金からキャッシュレスの方向へ流れを作ることの方が重要であり、そのためには消費者のニーズにどう対応するかが重要課題だとしている。「Visaとしては、カード発行業者や電子マネー業者各社と協同していますが、安心して利用して頂くことを最優先課題と考えています。もちろん、Visaを利用することがマーケットの牽引力となり、結果的に香港の電子決済のマーケット全体を推進していくことを願っています」。

3年以内にキャッシュレス時代になる可能性も

電子決済の流れが高まる中、Visaのリサーチでは25%を超えるアンケート回答者が3年以内にキャッシュレスの時代になるのではないかと考えており、現金以外の支払方法を採っていると回答した人が77%に達していることがその傾向を裏付けている。41%の回答者が一週間かそれ以上の間キャッシュを使っていないと回答しており、去年の33%から大きな伸びを見せている。

「電子決済は現金よりもメリットが多く安全性も高いと信じています」と何氏は言う。キャッシュレスは社会の趨勢ではあるが、最終目標というわけではないとしている。「データはこの2年来、主要な消費ツールが現金からクレジットカードへ、さらにデビットカードへとシフトしつつあることを示しています。これは、もう後戻りをしないという時代の流れです」。