【香港経済を追え vol. 25】

香港政府の今年度財政赤字は3000億香港ドル超、議員は早急の経済活動回復を呼びかける

新型コロナウイルス対策が後手で遅くなってしまった、ヨーロッパや南アメリカ、特にドイツ・スペイン、ヴェネズエラ・ブラジルなどでは、医療の面での対策のほか、都市封鎖による経済の衰退が大きな問題となっています。トルコは6月から観光客の受け入れを回復させ、政府が「ウイルス対策認証」を店舗や宿泊施設に出して、観光客を保護すると同時に同国の景気を活性化させようとしています。観光収入を当てにする国・都市は、人の流動を安全に再開させることが必須かつ緊急な課題となっているようです。

一方、こちら香港では、条件を満たす香港居住者(国籍を問わず)に一律一人1万香港ドルの助成金を支給すると発表されて、この8月中旬までに申請をした人はみな支給を受けているはずです。消費を刺激するための助成金ですが、飲食店の利用には店内での飲食の人数や時間の制限があり、またバーなどの営業の閉鎖が続いているのに加え、Stay Home Stay Safeの実行で、市民が出勤以外に出歩かなくなったことで、ショッピングモールや商業ビルの小規模店舗の売り上げが減り、家賃を払えず閉店してシャッターが下りているのもよく見かけます。お金があっても消費に直結していないのではないでしょうか。

都市封鎖の香港経済への影響はどんなふうに報道されているか、『東方日報』オリエンタル・デイリーの記事から見てみましょう。

ソース:

on.cc 東網 2020年8月23日 下午10:00 [GMT+8]
https://hk.mobi.yahoo.com/news/%E6%94%BF%E5%BA%9C%E8%B2%A1%E8%B5%A4%E5%B0%87%E7%AA%81%E7%A0%B43%E5%8D%83%E5%84%84%E5%85%83-%E8%AD%B0%E5%93%A1%E4%BF%83%E7%9B%A1%E5%BF%AB%E6%81%A2%E5%BE%A9%E7%B6%93%E6%BF%9F%E6%B4%BB%E5%8B%95-140036808.html

【on.cc東網】
新型コロナウイルスの感染の波が繰り返される中、打撃を受けた香港ローカルの経済は各業界の不況により高い失業率を見せている。香港政府は、前後二回の防疫抗疫基金などを含む3000億香港ドルあまりの措置を打ち出して各界の支援をしているが、まだ明確な成果が出ていない。政府は今年度の財政予算案で2900億香港ドルに達するほどの赤字予算となっており、これに第三弾の防疫抗疫基金の補填をしようとしており、財政赤字はさらに膨らみ、「明日大嶼 Lantau Tomorrow Vision」(注1)の埋立計画を強行しようとするなら財政は更に悪化する。ある議員は、防疫基金だけで経済を牽引するのは無理であり、政府が経済立て直しに速やかに対策すべきであるとしている。これには、(各種の印紙税倍額課税などの解除による)住宅物件売買取引の超高値の沈静化や、公務員削減で支出抑制するなどして、ウイルスと共存する態勢作りに備えることがふくまれる。

(注1:「明日大嶼」は、2018年度の政府予算案で発表された、空港とディズニーランドのあるランタオ島の南東部を1800ヘクタール埋め立てて住宅開発などをするという計画)

(参考)

https://hk.on.cc/hk/bkn/cnt/commentary/20200510/bkn-20200510000446979-0510_00832_001.html

ピンク色部分が埋め立て予定の箇所

不動産取引過熱の抑制のために、印紙税の倍額課税政策(非香港居住者による購入、香港居住者による二件目以降の物件の購入、物件購入から三年未満での転売)、買い手側のみの印紙税負担なども過去から行われている。

政府は各種ウイルス感染防止措置を打って、財政備蓄額が1.1兆香港ドル余りから下がって、8,000億ドルとなり、現在の備蓄額は14~15か月分の政府支出に相当する。中でも政府が第一弾の就業保証プランを打ち出して439億香港ドルを使ったが、失業者数の上昇を抑えることはできなかった。政府統計処のデータによると、季節的変動によらない失業者数は今年4月から6月で24万700人となっており、5月から7月で24万2,500人と、約1,800人増えている。労働福利局の局長である羅致光は番組出演時に、備蓄額を取り崩すことを長期にわたって行うことは不可能で、感染防止対策の調節が必要であり、今年度赤字は少なくとも3000億香港ドル超になると予想していることに触れた。

立法議会財務委員会議長の陳健波は、「防疫基金だけで経済立て直しを図ることは難しく、立法議会の新たな立法年度中に、財政委員会が少なくとも1000億ドルの建設事業予算を審議承認することで、政府の財政赤字は増加し、香港経済を更に低迷させることになることから、政府は各種の税収や公有地売却などの収入も更に落ち込み、財政国庫にも多大な影響がある」と示している。同氏の意見として、「政府は段階的に経済活動の回復を目指すべきであり、速やかに経済を刺激し、市民生活発展を促す政策を打ち出すべきだ」としている。

一部で言われているように感染確認者がゼロになるまで待ってから政府は経済発展に重点項目に取り上げるべきだという声について、「同氏は一部の業界は今正に衣食住を支えるだけの収入にも事欠く段階にあり、いつまでに感染が収束するのかわからない状況であるので、政府の感染防止対策は経済再建と同時並行で進めるべきである」としている。更に、「政府にとって感染防止策と経済対策は同じように重要であり、みなが確実な生活維持最低限の固定収入源を持っているのではない」と述べている。財政歳入公庫備蓄額が更に下がることについては、陳氏は「政府が財政支出の抜本策を取るよう提案し、公務員削減と政府各組織の支出を引き締めるのもオプションのひとつだ」としている。

嶺南大学潘蘇通滬港經濟政策研究所(Pan Sutong Shanghai-Hong Kong Economic Policy Research Institute (PSEI))の上級研究員の何濼生HO Lok Sangによると、ウイルス蔓延で香港経済環境は悪化傾向に転じており、政府の各種税収も下がらざるを得ないため、最終的に政府歳入の備蓄額にも影響が出ている。政府が先に発表した第三弾の防疫基金の実行について、何研究員は、「金額がどれほどになるのかはさておき、政府の財政赤字は今後も続くであろうが、今年度の財政赤字がどれほどの金額になるかを推定する必要はないとした上で、政府の赤字が今後毎年1,000億ドルづつ積み重なるようなら、早晩下支えすることは無理だ」としている。

何研究員はまた、「政府が不動産転売の過熱を阻止すると言いながら不動産市場への抑止対策を取り下げていないので、政府の施策に余裕がすこしでもあるなら、直ちに抑止対策を除外して、不動産市場の取引を活性化して、経済立て直しの効果を狙うべきだ」としている。 政府の内部情報として、来年度は新たに原資となる財政余裕がないと既にわかっているという声がある。現状では、政府のある部門が今年中に支出予算案を立てても引き続き申請は可能だが、審議は従来よりも慎重にならざるを得ず、政府各部門は必ずしも新たな支出項目の承認が得られないと思われる。