【香港経済を追え Vol. 14】
香港の金融センターとしての価値を保つ為に、資金調達の場として証券取引所の機能と公正さは、大きな要因を占めます。
上場企業に対する規定としては、環境保護・社会的な責任・組織としてのガバナンスの三つに関するガイドラインが昨年2019年に改訂されています。これが、香港証券取引所で上場した企業に対してどのように付加価値となるのかを、『資本壹週 Capital Weekly』の記事から探ります。
香港証券取引所(HKEX)
2019年末に『ESGガイドライン』を改訂。
上場企業のガヴァナンスと開示水準の引き上げを目指す。
金融界のエコの取り組みとして2015年にHKEXが『環境・社会・ガヴァナンス(Environmental, Social, Governance)報告のガイドライン』(以下、ESG)を打ち出し、新興の投資気運を目指した。2019年にさらに関連ガイドラインが改訂され、上場企業が更にガバナンスと経営の透明度を高めるものとなった。報告書作成費用増加や緑化設備の創設など、企業にとってはコストを上昇させる要因となるガイドラインだが、エコロジカルな金融の趨勢があるからには、企業がこの潮流に乗っていかなければ、長期的に世界中の投資家から注目を引くのは難しいとアナリストは見ている。
ESGは2019年7月1日から発効しており、年次経営報告書内に取締役会がESG関連の取組みを記載させ、取締役会の責任において関連するガバナンス目標の実行進度に責任を持たせることになっている。報告書に記載すべきこととしては、排水量・水使用効率・廃物抑制・エネルギー効率の目標と関連する対策、さらに数量化したフォーマットでキーとなる実効性指標KPIを示して、財務情報と直接関連付けている。
同時に、上場日以降、当該企業に影響を及ぼす重大な機構問題で既に取組み始めた事もしくは取組み可能な事を開示することになっており、「社会」に関わるKPIが企業の責任の度合いを示すに留まらず、一歩進んで「ノンコンプライアンスの場合はその理由を述べる」ことが必要となり、ESG報告書公開の期日を会計年度の締め日から5ヶ月内にすることなどが含まれる。
HKEXによれば、既に査定に応じた企業400社のESG報告において取締役会が着手したケースはまだ少なく、説明を欠くものもあるという。会社がESG関連のリスクを評価・取り扱いする際には、取締役会が積極的役目を果たすべきだと、HKEXは見ている。
香港証券取引所 新たなガイドラインの要点
追加項目 |
・ESG事務は取締役会の管理者のレベルに取り入れなければならない。 ・企業はESGの数値化目標を立てなければならない。 ・企業は気候変化の課題に取り組まなければならない。 |
テクニカルな面の変更 |
・ESG報告の公開時を早めて、決算年度の閉め日から5ヶ月以内までとする。 ・「報告原則」および「報告範囲」での開示項目を増やす。 ・社会レベルの指標については、開示の度合いを高めてすべて「ノンコンプライアンスの場合は、なぜなのか説明をすること」。 ・認証水準・範囲・採用の過程を具体的に記載する。 |
取締役の参画、証憑の保存
気候変動への影響の大きい企業の場合は、具体的な作業のガイドラインを策定する必要があり、作業工程の具体的なセクションやキーパーソンへの割り当てを見直すことになり、関連する過去のデータを見直すだけでなく、管理層がより多くの時間を掛けて明確な策定を作り上げ、全体のコントロールをすることを意味する。
更に、新しく加わった社会指標の部分では、過去3年の労災の比率、サプライチェーンのESG指標などを含む。また、データ算出の表示方式と統一性を強調しており、データの科学的根拠と比較し易さを与えるようにしている。この部分では第三者のプロの協力が必要になるケースもあろう。
エキスパートの勧めでは、上場企業取締役会はなるべく早くESG事務に関わるように、ガバナンスのストラクチャーを立ち上げ、ESG作業の重要性を引き上げて、そうして数値化された正確なデータによってデータベースを作るべきだとしている。
HKEX上場部政策主管の伍潔鏇氏は、「現時点までに提出されているESG報告書はレベルに達していない」という。これは報告を避ける意図があるというより、焦点が明確に理解されていないからで、11のレベルにわたる類別、30を超える重大なリスク関連の指標があるが、多くの会社が手を広げすぎて取りこぼし項目が出ることを怖れている心情を反映しているといえる。最新のガイドラインは、法定の監査報告書に取締役会の承認欄があるのと同様にESGについて声明を発することを要求しているが、これは取締役会がESGがどれほど重要であるかをよく理解して、これに積極的に関与し、報告書に反映させるためである。
さらに、少なからぬ企業がESG報告を複雑で面倒な項目と見ているかもしれないが、実際には通常の会社経営に力点を置いて、取締役が支出の証憑をきちんと保存するなどの日常業務に注意していれば、会社として報告を作成する手助けとなる。
企業側としては、時間をかけて新しい制度に適応していかなければならないが、投資者側から見れば、会社の詳細をより多く開示してもらえることは百利あって一害無しである。ESGが会社の業務発展や、長期的な利益計画や株価などと不可分の関係にある。これまでの「開示が望ましい」を無くして、今回の改訂で「ノンコンプライアンスならばその理由を説明する」を原則にしたことで、サプライチェーン管理や、労災事故・死亡事故や雇用関係など、社会の範疇の指標が数字で示され、関与する者すべて、つまり従業員・消費者・仕入先・ビジネスパートナー、ひいては一般市民に至るまで、企業の社会貢献の責任ある戦略が理解しやすくなる。
ESG報告の期限が早まったことは、企業にとって負担になる面もあるが、企業業績の発表の望ましい時期と、ESGガバナンスのレベルがバランスのとれた状態になるなら、投資者やファンドもさらに投資しやすい環境となり、株価へのプラス要因にもつながる。
一方で、単なる排出物の記載でなく、会社が排出物の引き下げに具体的な目標を設けて、目標を達成するステップを示すのが、新しいガイドラインの求めるところである。高い効率でリソースを用いることを開示するなど、上場企業の排出規制の取組みは、単なる机上の空論では済まなくなる。環境汚染に最も責任の高い製造業は、資本的支出を相当に増やすことにもなるし、上場企業が環境保護関連への関与をさらに重視するよう促すことにもなる。
この他、新しいガイドラインは更に厳格なサプライチェーン管理要求を提示している。企業はサプライチェーンのそれぞれのセクションに環境上・社会上のどんなリスクがあるかを判別し、サプライヤーを決めるのに、よりエコな商品やサービスを選ぶことが必要となる。こうすることによって、サプライチェーン全体の中での位置にかかわらず、ESG規則が上場企業以外に対してもプラスの方向性を持たせることになる。例として、2019年12月に江西贛鋒鋰業股份有限公司 Ganfeng Lithium Co., Ltd. [企業ナンバー01772] はBMWと5億4000万ユーロと高額の水酸化リチウムの契約を結んだが、BMW側が原料の産出地として指定のオーストラリアの硬岩鉱を要求して、ESG持続可能開発標準に合致させようとしたので、サプライヤー側も最終的に発注者側の要求に従うことになった。
GSIA(グローバル・サステイナブル投資アライアンス)の統計によれば、2018年にESG要因を正式に投資戦略の決め手として繰り込んだ全世界資産マネージメントの額は17兆5000億米ドルに達しており、この二年間で69%の伸びを達成している。過去3年間では、開発国のキャピタル市場がESGを投資理念に取り入れた資産規模も二桁の通年成長率を見せている。そのなかでヨーロッパはESG取組みが最も早く、母数が最大であったが、成長率は11%に留まっている。日本はその三倍に達している。ESGのコンセプトをテーマとした新たなファンドはますます増えている。ゴールドマンサックスの統計によると、全世界的なESGテーマの公開ファンドとETF(上場投資信託)の資産規模は、2017年に29%の伸びを実現している。その中でも、ESGのETF商品はさらに2.5倍の伸びを示している。
北欧・イギリス・フランスなどと比べると、香港ESG開発の成熟度と関連する資産規模はまだまだだが、ESG投資の需要を満たしていること、関連する上場開示規定の方面から見るなら、アジアパシフィック地域での香港の発展の状況は悪くないと言える。監督組織がESG関連の規定改訂するに従い、香港のESGは成熟に向けて一歩近づくことになるだろう。
上述の江西贛鋒鋰業股份有限公司の香港証券取引所提供の会社・株式情報:
https://www.hkex.com.hk/Market-Data/Securities-Prices/Equities/Equities-Quote?sym=1772&sc_lang=en
同社の公式ウェブサイト(英文)
http://www.ganfenglithium.com/about_en.html
GSIA (Global Sustainable Investment Alliance)の公式ウェブサイト
http://www.gsi-alliance.org/aboutus/
出典:『資本壹週 Capital Weekly』2020年1月23日 通巻741号の、「財經脈搏 迎戦16度」の記事から、抄訳