【香港ローカル ニュース Vol. 4】
香港人はなぜこの改訂案に反対するのか!?
今回の改訂案は大規模な社会争議を引き起こし、本来市民に十分な時間を与えて理解や討論、反対意見の想定などをするべきであった。ところが、今回政府はパブリックコメントにわずか20日間しか設けていなかった。
2014年の「雨傘革命」、香港占領の運動のときに比べて、今回のデモ反対活動は中心となる司令塔がなく、自発的な参加者の集まりである。もし誰かの煽りを受けているというならば、一番の扇動者はおそらく行政長官林鄭月娥(キャリー・ラム)氏自身である。
しかしニュース動画に見られるように、なんら衝突するような行為をせず、警察の防衛ラインから遠く離れたところに位置している人が、警察の発砲で顔を狙われたケースもある。
警察の武力行使は明らかにバランスを欠いたものであり、人道上暴行であると考える人が多い。
ベルリンの壁が倒れる前も、命令に服す東ドイツの兵士は西側へ逃げようとする人々に対し、発砲した。ベルリンの壁が倒壊した後、兵士は裁判に掛けられ、単に職務を執行したに過ぎないと抗弁した。そこで裁判官はこう尋ねた。「命じられて発砲したのであれば、狙いを外すことも出来たのではないか」と。
改定案に反対する主な原因はいくつか挙げられるが、今回はそのうち4つを取り上げたい。
まず1つ目に、「中央人民政府もしくは中華人民共和国のいずれかその他の一つ(=地方政府)」という条文を削除したら、容疑者を台湾に移送・引き渡すことが可能になるばかりでなく、中国大陸に引き渡すことも可能になる。
そうなれば、香港独自の地位を大幅に損なうことになる。つまり中国大陸の司法制度がまったく独立して機能しておらず、公平公正な政治を行えていないということである。
たとえば昨年、毒入り粉ミルクの被害者家族友の会を立ち上げた趙連海さんは、騒乱罪の罪を問われて禁錮刑を食らうこととなった。もし『逃亡容疑者(移送)条例』改訂案が通過可決されるならば、それは中国大陸は香港の司法システムを通じて、合法的に、香港人を中国大陸に移送し、中国大陸で裁かれるようになることを意味している。世論はこのような方法は多くの人を動揺させるものであり、香港人がもはや1997年以降、50年間の一国二制度を保障する憲法のような存在の『基本法』の保証する自由を享受できなくなるであろうと理解している。
2つ目に、香港が国際的な商業都市であり、各地のビジネスマンが香港をアジア地域のハブとして中国でビジネスをする利便性を与えていること、これは香港の司法独立がもたらす保障があればこそ出来ることなのである。
このような保障がなければ、ビジネスマンは法律面の各方面で面倒に出くわすことになる。たとえば、中国大陸の政界とビジネス界の間には暗黙のルールがあり、中国大陸でビジネスをするなら、法律的にはグレーゾーンに触れる機会がある。もし「逃亡容疑者条例」改訂案が通れば、こうしたビジネスマンは中国大陸に送られた上で、大陸で裁かれることになるのではないかという心配を持っている。よしんば、やり方が慎重で、法律違反をしていないビジネスマンであっても、中国大陸の競争相手に反感を受けるところとなり、この条例によって虚偽の訴えを起こされて、裁判沙汰で動きが取れなくなることを心配している。
これについては、多くの国の在香港商工会がすでに声明を上げて今回の改訂に反対している。また、企業によっては、経済の見通しの不透明さから、百億ドル超の商業的投資が取り消されるのではと心配している。世論はさらに懸念しており、トランプ政権が言うように、外資企業がアジア地域のハブとしての機能を次から次へと他の地域に移転させてしまい、外国政府はさらに香港に対する(中国大陸とは相対的な意味で)最恵国待遇を停止するという可能性まで考えられる。こうした事態の進展は、香港経済に厳重な打撃を与えることになり、市民生活にまで影響を与える。
3つ目に、現状の条文によると、通常は長期協議あるいは個々の事案の引渡しであれ、立法議会での審議を経なければならない。ところが現在提案されている改訂法案では、行政長官がもはや立法議会の同意を必要とせず、事案の引渡しを行使することができる。
これについては、世論の判断は行政長官の監督権を大幅に取り除くものであり、それによって容疑者の保障を大幅に減じるものだということである。
香港行政長官は香港人一人一票の投票で選挙されるものではないので、関連する権力を濫用するなら、市民はクレーム・見直しの要求が困難になる。
4つ目に、今回の改訂案は大規模な社会争議を引き起こし、本来は市民に十分な時間を与えて、理解や討論、反対意見の想定などをするべきであった。
ところが今回、政府はパブリックコメントにたった20日間しか設けていなかった。それでも法廷弁護士(Barrister)協会、弁護士協会、さらに平時は立場が対立している保守系宗教団体や教育団体までが出てきて反対を表明した。それにも関わらず、政府は依然として改定案提出を固辞しており、立法議会で早急に可決するよう要求しており、世論や反対意見を強烈に刺激するものとなっている。